小人閑居

「ベストセラー」より「知る人ぞ知る」といった本を紹介していきたいと思います。

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「死の商人」か「辣腕広報マン」か

「戦争広告代理店」
  高木 徹 講談社文庫


正直、かなりショッキングな内容であった。
ただし、この本は、不正などを告発するような内容ではない。
国際紛争の舞台裏で黒子として、活動した、とあるPR会社の
活動内容をレポートしたものである。

社会主義国「ユーゴスラビア連邦」は多民族からなる国家。
指導者チトーの死と冷戦構造の崩壊により、6つの共和国のうち
の一つスロベニアが独立、次にクロアチアが独立。
これに対し、連邦政府は独立を阻止するため、戦闘を開始した。

当時の連邦政府はセルビア人が中心であったため、版図を維持
したいセルビア人とそこから脱却したい各民族の戦い、という
構図になった。

そして戦火は 1992 年にボスニア・ヘルツェゴビナに及ぶ。

スロベニア、クロアチアはそれぞれ、ほぼ単一の民族だが、
ボスニア・ヘルツェゴビナは人口の 33% がセルビア人、17% が
クロアチア人・44% がモスレム人という民族構成。

このため独立したいモスレム人と独立させたくないセルビア人
が激しく対立することとなった。


当初は連邦政府のバックアップも受けたセルビア人側が優勢で
あったが、次第に国際世論が「セルビア人=悪」という図式に
傾き、1995 年になって、ようやく停戦に至った。

この時、国際世論の形成に大きな役割を果たしたのが、ボスニア
・ヘルツェゴビナ側と契約したPR会社、ルーダー・フィン社。


湾岸戦争(1990)の際、クウェートの少女がアメリカ議会に
おいて、クウェート市内のイラク兵が病院で乳児を保育器から
出し床にたたきつけたなどと証言、戦争に疑問を抱いていた
アメリカ世論は一挙に反イラク色に染まったが、後に少女は
駐米クウェート大使の娘で、現場にさえおらず、証言は虚偽
であった事が発覚した、という事件があった。

この件は、ルーダー・フィン社とは別の会社の仕事であるが、
このように顧客に有利なイメージを作り上げていくのが仕事で
ある。

ルーダー・フィン社は無から有は作り出すことはなかったが、
事実の一部のみを強調する、という事は行った。
ウソではないが、かぎりなくウソに近い。

このような紛争では、お互い同じような事をやってはいるが、
自分達に都合の悪い事は伏せておき、逆の事は大声で宣伝する。

過去の複雑な事情をくどくど説明などはしない。
善玉・悪玉、加害者・被害者など単純な図式で自分達が不当な
弾圧を受けている、ということを繰り返し強調する。

さらに「民族浄化」「強制収容所」と言った恐ろしいイメージ
を湧き起こす言葉を何度も何度も繰り返す。


このような結果、「セルビア人=悪」という図式がなりたち、
各国もその前提で行動することになったから恐ろしい。
自分達で考え、判断した結果だと思っていても、その判断の
前提となった情報は作られたものなのだ。


逆に言えば、複雑な問題でも単純な2項対立にしようとしたり、
何度も繰り返し強調される単語には要注意、という事だ。


それにしても人の命が関わる問題をPR会社に全部丸投げして
いいものだろうか、また受ける方もそんなものを受けていいの
だろうか、という疑問ばかりが残った。

ルーダー・フィン社は、この仕事で全米PR協会の年間最優秀
PR賞の「危機管理コミュニケーション部門」で最高賞を受賞
した。

ボスニア政府との仕事自体に釈然としないものを感じていたが、
さらに賞を与えて賞賛する、という態度にも疑問を感じてしまった。

自分は青臭い理想論を語っているにすぎないのか、相手の方が
狂っているのに気がついていないのか。
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