小人閑居

「ベストセラー」より「知る人ぞ知る」といった本を紹介していきたいと思います。

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少し不思議

「モノレールねこ」
      加納朋子  文春文庫

8編の短編からなる作品

それぞれの話の登場人物達が互いに関連することは
ないが、共通する部分がある。

「ウソ」をついているのだ。
ただし、その「ウソ」は「やさしいウソ」

誰かを思いやるためについたウソによる、もしくは、
そのウソが味付けになっている少し奇妙な8編の
エピソードである。

この8編のエピソードは、「悪者」がほとんど出て
こない。
それに先ほど「少し奇妙」と書いたが、ジェット
コースターのような展開がある訳ではなく、静かに
やさしく話が進んでいく。
読後感がさわやかだったのはこのためなのか、と
後になって思った。


一番、気に入ったエピソードは最後に収録されている
「バルタン最後の日」

「バルタン」とは主人公であるザリガニの名前。
名前の由来は、説明するまでもないだろう。
ザリガニの一人称・・・じゃなく一ザリガニ称で
語られるあたり「我輩は猫である」が思い浮かぶ。

ところで、このバルタン、誇り高いザリガニである。
そして、少しハードボイルドが入っている。

いや甲殻類に「ボイルド(ゆでた)」という言葉を
使うと、皿に乗せられた姿が思い浮かんでしまうから
やめた方がいいか・・・

「縁起でもない事、言わないでくれ!」
とバルタンに言われてしまいそうだ。

バルタンは、最初、人間に対して怒ってばかりである。
割り箸で体をつかまれた時には「自分は断じて
食材ではない」、
その後、その割り箸が捨てられたのを見た時は、
「自分は断じて汚物ではない」
と憤慨するあたり、ついつい慰めたくなってしまう。

だが、そんなバルタンも家族の様子を観察している
うちに情が移っていく。

妻と子供を不安がらせないように、会社の人間関係
の悩みを隠している夫。
両親を心配させないように、学校でいじめられている
ことを隠す子供。
そして、2人の悩みそのものは知らないが、何か
隠していることで苦しんでいることはわかっている妻。

「まったく、人間ってやつは・・・」
と言いながら、人間と一緒に悩みについて考える
ようになっていく。


そしてクライマックスでは、家族を守るために
命を張った行動をしてしまう。

本人・・・本ザリガニも認めているように
かなりお人好し、いや、おザリガニ好しである。

ラストでバルタンは家族に
「それじゃ、アバヨ。サヨナラだ」
と言うが、これを知っていたら使うだろう。
(そして似合いそうだ)

「さよならだけが人生さ」
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