小人閑居

「ベストセラー」より「知る人ぞ知る」といった本を紹介していきたいと思います。

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弟子、師匠を語る

寺田寅彦  わが師の追想
  中谷宇吉郎
    講談社学術文庫


寺田寅彦は戦前の物理学者であり、随筆家であり、俳人であった人物。
夏目漱石の「吾輩は猫である」の水島寒月、「三四郎」の野々宮宗八のモデルとも言われている。

発想がユニークな人で、個人的にも好きな人物であった。
タイトルは忘れてしまったが、通勤ラッシュ時の電車でも確実に座れる方法の考察や、全く異なる言語の単語が発音も意味も同じになる確率の考察が書かれた随筆など、非常に面白かった。
それに「茶わんの湯」という随筆は、和製「ロウソクの科学」とでも呼ぶべきもので、引き込まれてしまった。

本書は、寺田寅彦の弟子、中谷宇吉郎による追想録。

著者の中谷宇吉郎は人工雪の研究で世界的に有名な人物。
「雪は天から送られた手紙である」という言葉は一度は聞いた事がある、という人が多いだろう。
この研究については、「雪」という本に詳しく書かれているので、割愛するが、この雪の研究自体、寺田寅彦の影響を多大に受けた結果とも言える。

本書は一部、二部で、寺田寅彦の人となりを現すようなエピソードが収録されていて、三部では、有名な「墨流しの研究」に関わる論文と、「物理学序説」(未完)のための、覚書が収録されている。

個人的な印象では、寺田寅彦、というと研究面では(悪い意味でなく)文人趣味的な研究テーマばかり扱っていた、という印象があったが、本書から見えてくるのは、最新の物理学を頭にいれた上で、そういった研究テーマを扱っていた、という姿。
大勢の前では小さくなってしまうそうだが、ほんの数人が相手であれば、「自分の研究は、どれも10年は先をいっている」と、気焔を上げる事もあったらしい。
(実際、その通りなのだが)

本書で何度か言及される「球皮事件」(軍から依頼された事故原因の調査の仕事)では、関係者が原因の候補さえ思い浮かばないうちに、事故原因の見当をつけ、検証の結果、まさにその通りだった、という事があった。
変な研究ばかりしている人ではなかった、と思う反面、一流の科学者である事の証、と誇らしく思えた。
・・・と、こんな偉そうな事を書いてしまうと、関係者に怒られてしまいそうだ。

一番、印象に残っているのは、「物理学序説」の部分。

使っている用語が難しく分かりにくいのだが、本書の解説に記載されている事の力も借りると、寺田寅彦は、この「物理学序説」で
「物理学は"分析"に偏りすぎている。
それでは細分化されるだけで、相互の関係が分からなくなる。

全体を見る人がいなければ、本来の意味での物理学、つまり"物の理(ことわり)"を扱う学問ではないのではないか」
という事を言いたかったらしい。

この言葉、物理学に限らず、今でも他の分野で通用する気がする。
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