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庶民の言葉 

全国アホ・バカ分布考
 松本修
  新潮文庫



テレビ番組「探偵!ナイトスクープ」に寄せられた一通の投書。
”大阪の人は「アホ」と言い、東京の人は「バカ」と言う。ならば、その境界は?”

バカバカしくて面白い、という事で、調査開始。
東京駅から東海道を西下し、「アホ」と「バカ」の境界線を探る。

が、そこで予想外の出来事が起こる。
名古屋駅前で第3の言葉「タワケ」が出現したのだ。
また、番組出演者から九州では「バカ」を使うという証言も出る。

「アホ」「バカ」の分布は東西で単純に二分割されるものではなく、もっと複雑らしい。
番組自体も予想以上の反響があり、「アホ」「バカ」分布の調査はさらに大掛かりに。
全国を対象にしたアンケートも実施した。

その結果、見えてきたのは様々な種類の人を罵倒する(あるいは逆に親愛の情を示す)言葉の分布。
そして、その様々な言葉は、京都を中心とした波紋のように、何重もの同心円状に分布していた。

それは民俗学者の柳田國男が「蝸牛考」で提唱した「方言周圏論」そのものであったのだ。

当初、番組の1企画であったものが、放送終了後も著者は、継続調査し、方言に関する学会で発表するまでになる。
本書は、のべ3年にわたる「アホ」「バカ」調査の過程と結果をまとめたもの。

カバーの裏に「全国アホ・バカ分布図」がついている。
「アホ」「バカ」という言葉ひとつを取り上げただけでも、日本各地で様々な表現の仕方がある、というは本書で初めて知った。
この分布図を見て、「アホ」「バカ」表現の様々な種類に思いを馳せたり、自分が住んでいた地域では、どんな言葉が使われていたのかを探すだけでも面白い。

ただ、すべての言葉が「方言周圏論」で説明できるものではないだろう。
言葉の種類によっては、ある場所(街道、川や山脈など)を境にキレイに分かれているものもあるかもしれない。

例えば、言葉ではないが、うどんのつゆの関東風と関西風は関が原が境界らしい。
関が原は中山道・北国街道・伊勢街道の交差する場所で、大軍が集まりやすい場所であったため、「天下分け目の戦い」の場所になったが、同時に物流の分岐点(もしくは交差点)でもあったためらしい。
言葉の分布にも影響を与えていそうな気がする。

「全国アホ・バカ分布図」は、そういう想像も広げさせる。


ところで、全国各地の「アホ」「バカ」に相当する方言に共通するものは、直接、人を罵倒する表現ではなく、何かに例えるケースが多い、というもの。
間抜けな(と考えられていた架空の)動物に例える、仏教の用語を用いて、中身の空虚さを表すなどの例がある。

昔、新聞記事か何かで、恋人に会えない苦しい気持ちを着物の帯をきつくしてしまった事に例えた和歌を欧米の人に紹介したところ、「なぜ、直接、”苦しい”と言わないのか」という反応が返ってきた、という記事があったのを(おぼろげな記憶だが)思い出した。
「婉曲的な表現」を好むのは日本人の国民性なのだろうか。
他の国の「アホ」「バカ」表現と比較すると、文化の違いが明確になったりして、面白いことだろう。

とにかく、こういう「庶民が普通に使う言葉」にこそ、お国柄が出てくるのだと思う。
だが、このような言葉ほど、今回の調査のような事がない限り、注目されることもなく、使われなくなるとひっそりと消滅してしまう。

建築家ミース・ファン・デル・ローエは
「神は細部に宿る」
と言ったそうだが、
「神は”どうでもいい事”に宿る」
とも言えそうだ。

あくまで「ときどき」ではあるが。
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カテゴリ: 松本修

テーマ: 読書感想 - ジャンル: 本・雑誌

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