小人閑居

「ベストセラー」より「知る人ぞ知る」といった本を紹介していきたいと思います。

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巨大事業戯画

となり町戦争
 三崎亜記
  集英社


となり町との戦争。

それは市の広報誌に小さく載っていた。
まるで道路工事か、町内でのイベント案内かのように。
(終戦予定日まで載っている)

が、戦争が始まっても、日常は全く変わっていないように見える。
少なくとも表面上は。

全く実感の湧かない「戦争」
銃声一つ聞こえない。

ただし、次に来た広報誌の「町勢概況」の中に転入出者数、出生数、志望者数に混ざって「戦死者数」が記載されるようになっていた。
どうやら戦争は本当に行われているらしい。

そんな中、主人公北原に「戦時特別偵察業務従事者の任命について」という通知が届く。
しばし考えた後、北原は、この訳の分からない戦争を観察してみよう、と任務を受ける。

こうして偵察員として戦争に参加するが・・・。


「なぜ、となり町と戦争をしなければならないか」
「この戦争には、どんな意味があるか」
という事については、一切、語られない。

「地元説明会」なるものが開かれ、この事を問う者と町の担当者とのやりとりのシーンもあるが、町の職員は暗に
「そんな事は政治家に聞け」
「そういう決定をしたのは、あなたたち自身が選んだ政治家だ」
と言っている。

実施を覆す事ができない既定事実としての「戦争」
それを事務的に淡々と進めていこうとする両方の町の担当者たち。

「偵察業務」を行う際の注意事項(ガソリン代の請求方法など)や、報告書の書式など、「戦争」なのに、やたらと「お役所仕事風」
緊急事態で機密文書を持って逃げろ、という指令の際も、担当者は文書課に機密文書の移動の認可をもらった上で指令を出していたりする。

この作品内での「戦争」は「巨大(公共)事業」のカリカチュアなのだろうか。

となり町の役場には「この戦争に勝てば、こんないい事がある」といったスローガンだらけ、という描写もあるし、主人公が住む町の職員も「この戦争は、ある意味、となり町との"共同事業"」とさえ言っている。
広報誌に載る「戦死者数」は、立ち退き等、「犠牲」を強いられた人の数にあたるのかもしれない。
なんにせよ「統計上の数字」という扱い。

唯一、「戦争」が意識されるのは、主人公が機密文書を持って、となり町から脱出するシーン。
・・・ではなく、その後、脱出の際、手を貸してくれた雑貨屋のおばさん(実はスパイ)が、正体がバレて、銃殺された、と聞かされるシーン。

それまで、緊迫感がまるでない状態だっただけに、急に冷たいものを頬に当てられたよう。
「統計上の数字」の裏に「一人の人間」がいる事を痛感させられる。

ただ、となり町との戦争は訳も分からないままに始まり、訳も分からないままに終わる。
そして、明確な勝敗(効果?)すら分からない。

下っ端として加わった者から見た巨大事業とは、こんな感じなのだろうか。
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